双方向に見えて実は一方通行に近い構造

コンサルティングファームから事業会社への転職は「王道のキャリアパス」として広く認知されています。逆に、事業会社からコンサルティングファームへの移動も不可能ではありません。しかし、この2つの方向は対称ではありません。移動の難易度、求められる条件、そして移動後に直面する適応課題のいずれにおいても、構造的な非対称性が存在します。

サーチの現場では、この非対称性を理解しないまま移動を試み、期待と現実の乖離に苦しむケースが繰り返し観察されます。なぜこの非対称性が生まれるのか、その構造を分解してみたいと思います。

コンサルから事業会社へ——成功と失敗の分岐点

コンサルティングファーム出身者が事業会社から評価されやすい背景には、分析力・構造化能力の高さと、複数の業界・企業に関わった経験から得られるベンチマーク的な視点があります。ただし、この移動が「容易」であるわけではありません。

成功するケースにはいくつかのパターンがあります。コンサルタント時代に特定のクライアント業界に深く関与し、その業界の事業構造やバリューチェーンを内側から理解している場合。あるいは、ポストコンサルとして入社した後に、戦略立案だけでなくオペレーションの実行まで踏み込み、実績を積み上げた場合です。

逆に、「戦略を描ける」ことだけを武器に事業会社に移り、実行局面で苦労するケースは珍しくありません。「クライアントに対して正しい答えを提示する」能力と、「不完全な情報と限られたリソースの中で意思決定し、結果に責任を負う」能力は、似ているようで質が異なります。この差を甘く見ると、移動後に深刻なギャップに直面することになります。

サーチの現場で観察される限り、事業会社への移行が機能しやすいコンサルティング経験にはいくつかの特徴があります。

第一に、同一クライアントに対して戦略策定から実行支援まで12か月以上継続的に関与した経験です。断続的な「プロジェクト型」の関わりではなく、実行局面で組織内部の抵抗や予算の再配分といった泥臭い現実に向き合った履歴は、事業会社側が最も重視する参照点となります。

第二に、ファーム内でインダストリーの知見を深めた経験です。特定の業界に数年単位で関与し、業界特有のバリューチェーンやKPIの構造を理解している人材は、入社後の立ち上がりが速い傾向があります。

第三に、ファームの看板なしにクライアント組織の人間を動かした経験があるかどうかです。ファーム名による「借りた権威」ではなく、自らの信頼と説得力でステークホルダーを巻き込んだ実績は、事業会社での再現性を予測する上で最も信頼性の高い指標といえます。

面接の場では、この移行の成否を見極めるための問いが双方にとって重要になります。候補者側が確認すべきは、「DX推進」や「変革」といった抽象的なミッションの背後にある具体的な権限と報告ラインの設計、既存のIT部門や事業部門との役割分担が明文化されているか、そして最初の6か月間に期待される成果のスコープが現実的かどうかです。

事業会社からコンサルへ——構造的に困難な理由

一方、事業会社からコンサルティングファームへの移動には、より大きな構造的障壁があります。

第一に、コンサルティングファームのビジネスモデル上の制約があります。ファームの収益構造はコンサルタントの稼働率に強く依存します。事業会社出身者を採用する場合、その人材がプロジェクトにアサインされてすぐにクライアントに対してバリューを出せるかが問われますが、事業会社での実務経験は、仮説構築やスライドベースでの論点整理といったコンサルティング固有のワークスタイルに直結しません。

第二に、年齢とタイトルの不整合が生じやすい点があります。事業会社で部長職を務めていた40代のプロフェッショナルがファームに移る場合、ファーム内のタイトル体系においてどのレベルに位置づけるかが難題となります。マネージャーでは本人の期待と合わず、パートナーでは実績が不足します。この構造的なミスマッチが、採用の段階で移動を阻む要因となることが少なくありません。

第三に、ファーム側が事業会社出身者に期待するのは、多くの場合「業界エキスパート」としての限定的な役割です。総合的なコンサルタントとして成長するパスではなく、特定業界の深い知見を武器にシニアポジションで貢献するという位置づけになりやすい傾向があります。キャリアの自由度という観点では、必ずしも魅力的な選択とは言えない場合もあります。

非対称性を前提としたキャリア設計

この非対称性は良し悪しの問題ではなく、構造として理解しておくことに意味があります。キャリアパスの方向性を考える際、「行きたい方向に行ける」という前提を置くのではなく、「構造的にどの方向への移動が成立しやすく、どの方向には追加的な条件が必要か」という問いから出発すること。この視点が、結果として現実的かつ戦略的なキャリア設計につながります。