「カルチャーフィット」は、採用プロセスで最も多用され、かつ最も定義が曖昧な評価軸の一つといえます。面接で「うちのカルチャーに合うかどうか」が語られるとき、その背後にあるのは企業文化そのものではなく、組織のパワーダイナミクスとインセンティブ構造であることが少なくありません。エグゼクティブクラスの転職においては、この見えない力学を読む力が、入社後の成否を分ける決定的な要因となります。

表層のカルチャーと実効のカルチャー

面接で語られるカルチャーには二つの層があります。公式に掲げられたミッションやバリューといった「表層のカルチャー」と、日々の意思決定や人事評価において実際に機能している「実効のカルチャー」です。この二つが一致している組織は、実のところそれほど多くありません。

たとえば「挑戦を歓迎する」と掲げながら、失敗案件のリーダーが翌期に閑職へ異動しているケースがあります。「フラットな組織」を標榜しつつ、実態としてはCxOの一人が全ての重要意思決定を握っているケースも見受けられます。面接で候補者が受け取る「カルチャー」の説明は、多くの場合この表層に属するものです。

サーチの現場では、候補者に対して「誰がカルチャーを語っているか」に注意を向けることをお勧めしています。人事部門が語るカルチャーと、事業部門の現場リーダーが語るカルチャーにズレがある場合、そのズレ自体が組織の力学を映し出しています。双方に同じ質問を投げかけたときの回答の温度差は、公式資料からは読み取れない組織の実相を示す貴重なシグナルとなります。

インセンティブ構造から逆算する

実効カルチャーを見抜くうえで最も有効な切り口は、インセンティブ構造の分析です。何が評価され、何が報酬に結びつき、何が昇進の条件になっているか——この三点を把握すれば、組織で実際に強化されている行動様式が浮かび上がります。

MBO(目標管理)中心で個人の数値達成に報酬が強く連動する組織では、部門横断的な協業よりも個人最適が優先されやすい傾向があります。一方、360度評価やチーム単位の業績連動報酬が導入されている組織では、合意形成のプロセスが重視される傾向があります。どちらが良い悪いという話ではなく、候補者自身の意思決定スタイルや成果の出し方との相性が問われるということです。

面接の場でインセンティブ構造を直接聞くのは難しいですが、「直近で昇進された方はどのような成果を出されたか」「評価のフィードバックはどのような形で行われるか」といった問いから、かなりの情報を引き出すことができます。

パワーの所在と「拒絶反応」のメカニズム

カルチャーフィットの本質は、突き詰めると「その組織においてパワーがどこに集中し、どのように行使されるか」に対する適応可能性といえます。意思決定権限がCxOレベルに集中しているトップダウン型の組織と、ミドルマネジメントが実質的な意思決定を担うボトムアップ型の組織では、求められるリーダーシップスタイルが根本的に異なります。

トップダウン型で成果を出してきた人材が合議制の強い組織に移った場合、意思決定のスピード感に対するフラストレーションを抱えやすくなります。逆に、丁寧な合意形成を得意とする人材がスピード重視の環境に入れば、「推進力が足りない」と見なされるリスクがあります。

さらに、エグゼクティブ採用では、新たに入るリーダーが既存のパワーバランスを変える可能性があるため、現職の経営陣が無意識に類似スタイルの候補者を好む同質性バイアスが働きやすくなります。カルチャーフィットという名目は、このバイアスを正当化しやすい構造を持っています。

だからこそ、候補者の側にも組織を評価する視点が求められます。「この組織のカルチャーに合うか」ではなく、「この力学の中で自分はどのようなインパクトを出せるか」と問い直すこと——その視座の転換が、カルチャーフィットという曖昧な言葉に回収されない判断につながっていきます。