最初の90日の障壁は個人の力量だけでは説明できない

DX推進リーダーが着任直後に躓くパターンには再現性があります。サーチの現場で着任後のフォローアップを重ねる中で見えるのは、これらが個人の能力不足からではなく、DX推進という機能が既存の組織構造に埋め込まれる際に必然的に発生する摩擦だということです。

第一の障壁——総論賛成・各論抵抗

DXの重要性に異を唱える経営層は多くありません。しかし具体的な施策が各部門の業務に手を入れる段階になると「今のタイミングではない」「まず他の部門から」という反応が出現します。既存事業の運営責任を負う部門長にとって、短期業績目標とDX推進は本質的にトレードオフの関係にあり、DX進捗が彼らの評価指標に含まれていなければ、協力のインセンティブが構造的に欠落することになります。

第二の障壁——ITデットの可視化と説明責任

着任後に直面するのは「変革対象の状態が想定以上に厳しい」という現実です。レガシーシステムの依存関係、消失した業務ドキュメント、属人化した運用——これらの技術的負債は採用面接では正確に開示されないことが少なくありません。この実態を経営層に報告する役割がDX推進リーダーに回ってきますが、信頼関係が未構築の段階で「想定以上の投資が必要」と報告すれば、推進力不足という誤った評価に繋がりかねません。

第三の障壁——推進組織の人材構成

配下チームの構成も初速に影響します。各事業部門からの出向者が元部門の意向を優先する、外部委託前提で社内に知見が蓄積しない、情報システム部門との役割が曖昧で保守運用に工数を吸収される——こうした構造はリーダーの着任後すぐには変えられません。

着任後の観察では、比較的うまく立ち上がるリーダーは最初の90日を「構造の理解と小さな実績づくり」に充てています。全社施策ではなく特定領域で目に見える改善を一つ生み出し、信頼を獲得します。地味ですが、この初手がその後の推進力を決定的に左右します。