「部下何名のマネジメント経験がありますか」——この問いはエグゼクティブ採用の場面で今なお頻繁に投げかけられます。しかし、転職市場におけるマネジメント経験の評価軸は、ここ数年で明確にシフトしています。組織の人数規模ではなく「その人材が何を変革したか」というインパクトの質が、ポジション獲得を左右する時代に入ったといえます。
「人数」が評価指標として機能しにくくなった背景
マネジメント経験を人数で測る慣行には、一定の合理性がありました。組織規模が大きくなるほど調整コストは指数関数的に増大し、それをハンドリングできること自体が能力の証明になるからです。
しかし、この前提はいくつかの構造変化によって揺らいでいます。アジャイル型のチーム編成が広がり、少人数で大きなビジネスインパクトを生む事例が増えました。リモートワークやプロジェクトベースの業務体制が普及し、「直属の部下」という概念自体が曖昧になりました。BPOやAIツールの活用により、以前は多くの人員を要した業務が少人数で遂行可能になりました。こうした環境下で「50名のチームをマネジメントしていた」という実績は、かつてほどの説得力を持たなくなっています。むしろ「なぜ50名が必要だったのか」「その組織で何が変わったのか」という問いに答えられなければ、オペレーション維持の管理者という評価にとどまるリスクがあります。
市場が評価する「変革インパクト」の三つの軸
サーチの現場で観察される評価軸を整理すると、三つの軸が浮かび上がります。第一に「事業成果への直接的インパクト」——売上成長率、利益改善、新規事業の立ち上げなど、数値で語れるビジネス上の成果です。重要なのは、その成果が市場環境の追い風によるものか、自らの施策によるものかを構造的に説明できるかどうかにあります。
第二に「組織変革のインパクト」——組織構造の再設計、評価制度の刷新、カルチャーの変容といった、組織そのものを変えた経験がこれにあたります。特に統合後の組織再編(PMI)や事業撤退に伴う組織縮小をリードした経験は、成長局面のマネジメントとは異なるスキルセットの証明として高く評価されます。
第三に「人材育成のインパクト」——自分の下で育った人材がその後どのようなポジションに就いているかは、マネジメントの質を間接的に示す指標となります。直属の部下から後任のリーダーが輩出されている場合、単なるタスク管理を超えた育成力の証拠と見なされます。
変革の「語り方」が選考を分ける
評価軸が変革インパクトにシフトしている以上、候補者の側にも語り方のアップデートが求められます。職務経歴書に「○○部門(従業員○名)の統括」とだけ書かれているケースは依然として多いですが、これでは何を変え、どのような成果を生んだのかが見えません。
効果的な語り方は、Before/Afterの構造を明示することです。着任時の組織の状態(課題、KPI、体制)と、自分の施策を経た後の状態を対比することで、変革のインパクトが具体性を持ちます。たとえば「事業部の営業組織を顧客セグメント別に再編し、クロスセル比率が前年の1.5倍に向上した」といった記述は、単に人数を述べるよりも遥かに多くの情報を伝えることができます。
ただし、ここには一つの逆説があります。変革インパクトが重視されるということは、安定した組織を着実に運営してきた経験が過小評価されるリスクも孕んでいます。全ての組織が「変革」を必要としているわけではなく、継続的な改善を積み重ねることにも高度なマネジメント力が求められます。市場の評価軸と組織が実際に必要とする能力との間にあるこのズレを、どこまで冷静に読めるかが問われています。