評価されるのは在籍期間ではなく再現可能性
一社に20年在籍した経歴を、どう受け止めるか。当事者の方は、長く務めたことが評価されるのか、変化に乏しいと見られるのか、判断に迷うことがあるようです。
サーチの現場で見ている限り、在籍期間の長短だけで評価が決まることは多くありません。一社経験が否定されているというより、見られているのは別の点です。その期間の中で、どのような実績があり、それが別の環境でも再現できそうか、という点です。
再現可能性は、ある成果が、その人の力によるものか、その環境によるものかを切り分ける問いと言い換えられます。
同じ組織に長くいると、築いた関係性や社内の暗黙知、過去の経緯への理解が、成果の一部を支えている場合があります。そのため採用側は、成果が環境に依存していないかを確かめようとします。転職の経験がある方は、環境が変わっても成果を出した事実が、その確認材料になりやすい傾向があります。一社に長く在籍した方は、同じ確認材料を、社内での節目ごとの変化から自分で示す必要があります。
ただし、これは一社経験が不利だという意味ではありません。一社のなかでも、事業・役割・上司・組織規模が変わっていれば、環境の変化のなかで成果を出した証拠になります。反対に、転職の回数が多くても、短期間での離職が続いていれば、再現性より定着性への懸念が先に立つこともあります。回数の多少ではなく、変化のなかで何を成し遂げたかが問われます。
求人票には現れない採用側の問い
もう一つ、見落とされやすい点があります。再現可能性を、何に対して読むのかは、採用する企業の組織課題によって異なります。
たとえば同じ「部長採用」でも、背景は大きく二つに分かれます。
一つは、新組織の立ち上げです。 組織づくりは、上から採用していくことが多くあります。入社した人は部下がいない状態から、中途採用も含めて、何もないところから組織を立ち上げることになります。この場合、採用を含めたベンチャー的な事業経験のある人の方が、再現できそうだと読まれやすい傾向があります。0から1を作った経験が、そのまま問いに対応するためです。
もう一つは、一定規模の組織の強化です。 裾野が広がった組織では、0から1を作る話ではなく、トップマネジメントから組織を引き継いで運営できるかが問われます。ある程度組織だった環境での運営の作法を知っている人の方が、再現できそうだと読まれやすくなります。
求められる経験の質はまったく異なりますが、求人票には、どちらも「部長候補」と書かれます。この違いは、求人票からは読み取れません。同じ経歴でも、読まれ方は企業の組織課題によって変わります。経歴が不足しているというより、問いの種類が合っていないだけ、という場合も少なくありません。
強みと望む仕事の問いが違うと選択肢が狭く見える
この構造は、ときに意図と逆の結果を生みます。
大企業で長く部長クラスを務めた方の強みは、多くの場合、後者、つまり規模のある組織を運営し、強化する力にあります。ところが、転職に際して「新しいことに挑みたい」と考え、新規事業や立ち上げ段階のポジションを希望される場合があります。そのとき採用側からは、立ち上げの再現性より、「現職の延長に見える」という印象のほうが先に立ちやすい傾向があります。
結果として、強みを活かせる強化型のポジションでは、新規性を求める志向が伝わりにくく、立ち上げ型のポジションでは、0から1の経験が見えにくい。強みが強化型にあるほど、新規性を求める転職の選択肢が狭まるように感じられる背景には、こうした構造があると考えられます。もちろん、大企業のなかで新規事業を立ち上げた経験があれば、この読まれ方は変わります。
どちらが良い悪いという話ではありません。自分の強みがどの問いに対応していて、望む仕事がどの問いに属しているか。その二つが重なる場所を、先に見定めておくことが、選択肢を広げる手がかりになります。
在籍期間の中身を言葉にしておく
では、一社に長く在籍している方は、何を準備できるでしょうか。考えられるのは、在籍期間を「一つの経歴」ではなく、環境が変わった節目ごとの実績として分けて語れるようにしておくことです。
- どの時点で、事業・役割・組織規模が変わったか
- その変化のなかで、何を成し遂げ、何が自分の力によるものだったか
- 前任者や後任者がいる場合、引き継いだ後に何が続いたか
加えて、面談の場では、相手の組織課題を先に聞いてみることも一つの方法です。立ち上げに向けた先行採用なのか、すでにある組織の強化なのか。それを聞いたうえで、自分の経歴のどの部分が関係するかを選んで語ると、「再現できそうか」という問いに、より直接的に答えやすくなります。
一社での20年は、長さだけでは何も語りません。その中身をどう分解し、どの問いに結びつけるか。評価を分けるのは、おそらくそこです。



