PdM人材の市場価値は本当に高いのか

プロダクトマネージャー(PdM)の求人は、ここ数年で急激に増加しました。DX推進の文脈でプロダクト志向の経営が注目され、事業会社・SaaS企業・大手企業のデジタル部門が競うようにPdMポジションを新設しています。結果として、PdM経験者の市場価値は高騰しているように見えます。しかし、サーチの現場から見ると、この「高騰」には構造的なバブルが含まれており、実際に高い評価を受ける経験と、肩書きだけで中身が伴わない経験の間に、明確な断層が存在します。

問題の本質は、「プロダクトマネージャー」という職種名が指し示す業務範囲が、企業ごとに著しく異なることにあります。ある企業ではCEOに近い意思決定権限を持つ役割であり、別の企業ではプロジェクトマネージャーとほぼ同義で使われています。この曖昧さが、市場価値の過大評価と過小評価の双方を同時に生み出しています。

バブルを形成する3つの構造

PdM市場のバブルを構成する要因は明確です。

第一に、名称のインフレーションがあります。開発チームのタスク管理が主業務であっても、PdMという肩書きが付与されるケースが増えています。職務経歴書上ではPdM経験者としてカウントされますが、プロダクト戦略の立案やユーザーリサーチに基づく仮説検証を主導した経験は持っていません。こうした「名称だけのPdM」が市場に増えることで、PdM経験者の母数が膨らみ、希少性の実態がぼやけていきます。

第二に、採用側の定義不足があります。PdMを採用したいと考える企業の多くが、自社にとってのPdMの役割定義を明確に持っていません。「プロダクト思考を組織に導入したい」という漠然とした期待でPdMを採用し、入社後に期待と実態のギャップが表面化する傾向があります。

第三に、成功事例の過度な一般化があります。特定のデジタルプロダクトを急成長させたPdMの事例が業界内で広く共有されることで、あたかもPdMという職種そのものが事業成長の鍵であるかのような認識が広がりました。しかし、その成功はプロダクトの市場環境、組織の成熟度、投資余力といった複合要因によるものであり、PdM個人の経験として転用可能な部分は限定的です。

実需として評価されるPdM経験の特徴

では、バブルを超えて実際に高く評価されるPdM経験とは何でしょうか。エグゼクティブサーチにおいて、採用企業が繰り返し重視するのは以下の要素です。

  • プロダクトのKPIを自ら定義し、事業のP/Lに接続した経験
  • エンジニアリング、デザイン、ビジネスの三領域にまたがる意思決定を実際に行った実績
  • 機能開発だけでなく、機能の廃止やピボットの判断を主導した経験
  • 経営層に対してプロダクト戦略を直接提案し、予算配分に影響を与えた実績

これらに共通するのは、「意思決定の主体であったかどうか」という一点です。プロダクトに関与した経験ではなく、プロダクトの方向性を決定した経験が、実需として評価されます。ロードマップの作成ツールを使いこなすスキルではなく、ロードマップ上の優先順位を事業戦略から逆算して決められる判断力が問われています。

市場価値の持続性をどう見極めるか

PdM経験の市場価値が今後も維持されるかどうかは、「プロダクトマネジメント」という概念が組織内でどのように制度化されるかに依存します。現在は概念の導入期にあるため、経験者というだけで一定の希少性が認められています。しかし、PdMの育成プログラムが整備され、社内異動でPdMポジションを担う人材が増えれば、外部市場での希少価値は必然的に低下していきます。

サーチの現場で印象的なのは、PdM経験を持つ候補者のうち、自身の経験がバブルに支えられた評価なのか、実需に基づく評価なのかを冷静に見極められている人材が非常に少ないことです。市場が自分を高く評価しているとき、その評価の根拠を疑うのは心理的に難しいかもしれません。しかし、バブルはいずれ調整局面を迎えます。そのとき、自らのPdM経験が「意思決定の実績」として語れるものであるかどうかが、キャリアの次のステージを左右する分水嶺となるのではないでしょうか。