「転職しますか?」という問いの設計ミス
サーチの初回コンタクトで最も多い反応は「転職したいかと言われると、正直わからない」というものです。現場ではこれが例外ではなく多数派といえます。候補者の多くは「転職したい」のではなく「現状維持でいいのか分からない」という曖昧な状態にいます。
問題は「転職しますか?」という問いの設計にあります。Yes/Noの二択が前提ですが、候補者の内部では二択以前——何を決めるのかが見えていない——という状態にあります。メニューを渡される前に注文を聞かれているようなものです。「決められない」のは意志の弱さではなく、判断材料の不在によるものです。
フェーズ構造——A/B/C/D
キャリアへの関心の変化には一定のフェーズ構造があります。Phase A(無関心期)は外部への関心がゼロの状態です。Phase B(違和感期)では「このままでいいのか」という漠然とした疑問が浮上しますが、転職意向か一時的な倦怠か本人にも判別がつきません。Phase C(情報収集期)で外部の選択肢を意識的に探り始め、Phase D(意思決定期)で比較検討と最終判断に至ります。
既存のキャリア支援の多くはPhase C〜Dを前提に設計されています。求人紹介も書類添削も「動く意思がある人」向けです。しかしサーチの現場で接するシニア層の大半はPhase AかBにいます。設計と実態のミスマッチがここに生まれます。
選択肢の提示が「自己仕分け」を起動する
Phase Bの候補者に「転職しますか?」と問うことの非合理性は明らかです。では何が有効でしょうか。観察されるのは、選択肢の全体像が提示された瞬間に候補者が自発的に仕分けを始める現象です。「これは自分の方向と違う」「この領域は気になる」——判断基準は外から与えられるのではなく、選択肢との対比の中で内部から立ち上がります。
問われるのは「転職したいか」ではなく「どのような選択肢が存在するか把握しているか」です。意思決定の手前には選択肢の認知という不可欠なステップがあります。順序を飛ばして意思確認を急ぐことは、慎重な層から順に対話の窓を閉じさせることになります。
Phase Bにいる方にとって最も生産的なのは、転職の意思を固めることではありません。自分の現在地を構造的に把握すること——市場における自分のプロファイルの位置づけ、キャリアパスの分岐シナリオ、現在のポジションの延長線上にある天井——を理解するプロセスに入ることです。これは転職活動ではなく、キャリアの棚卸しです。
その結果として「今は動かない」という判断に至ったとしても、それは情報に基づいた選択であり、不安に蓋をした現状維持とは構造が異なります。