サーチファームと候補者の関係には構造がある

エグゼクティブサーチのプロセスにおいて、多くの候補者はサーチコンサルタントを「自分のキャリアを支援してくれるパートナー」として認識しています。実際、優秀なコンサルタントは候補者に対して丁寧な対応をし、キャリアに関する有益なアドバイスを提供することもあります。しかし、サーチビジネスの構造を理解すれば、コンサルタントが候補者に伝えることと伝えないことの間に、合理的な境界線が存在することが見えてきます。この構造を理解しておくことは、候補者が転職プロセスにおいて適切な判断を行うための前提条件といえます。

フィー構造が生む情報の非対称性

サーチファームのビジネスモデルの核心は、フィーの支払い元がクライアント企業であるという点にあります。リテインドサーチであれコンティンジェンシーであれ、サーチファームの経済的利害は採用企業側と結びついています。これは倫理的な問題というよりも、ビジネス構造上の必然といえます。

この構造が情報の流れに影響を与えます。たとえば、クライアント企業の組織課題——経営陣間の対立、直近の離職率の高さ、業績見通しの不透明さ——について、サーチコンサルタントがどこまで候補者に開示するかは、クライアントとの守秘義務と候補者への誠実さの間で常にバランスが取られています。多くの場合、ネガティブな情報は「完全に隠される」のではなく、「積極的には提示されない」という形で処理されます。

また、報酬交渉においても構造的なバイアスが存在します。サーチフィーが採用者の年収に連動する場合、コンサルタントには候補者の報酬を高く着地させるインセンティブがあります。しかし同時に、交渉が長引いたり決裂したりすることはフィー回収のリスクを高めます。この二つの力の間で、コンサルタントは「合理的に受け入れ可能な範囲」での着地を志向する傾向があります。それが候補者にとっての最大化された条件であるとは限りません。

候補者に見えない情報——順位とリファレンス

サーチプロセスにおいて候補者が最も知りたい——しかし最も得にくい——情報の一つが、自分が候補者群の中でどの位置にいるかという情報です。サーチコンサルタントは通常、複数の候補者を並行して進めており、クライアント企業の中での各候補者の評価をリアルタイムで把握しています。しかし、この情報を候補者に正確に伝えることは稀です。

理由は明快で、候補者のモチベーション管理がプロセス成功の鍵だからです。「あなたは現時点で第二候補です」と伝えることは、その候補者のプロセスへの関与度を下げるリスクがあります。結果として、候補者は「非常に高く評価されている」「プロセスは順調に進んでいる」といった、方向性は正しいがグラデーションの分からない情報を受け取ることになります。

同様に、ポジション自体の充足確度——クライアント企業が本当にこのポジションを埋める意思と予算を持っているか——についても、候補者に対して率直に共有されないことがあります。サーチが「マーケットマッピング」の段階にあるのか、すでに具体的な採用決裁が下りているのかは、候補者がプロセスに投じる時間と労力の判断に直結する情報です。しかし、明確に伝えられないケースは少なくありません。

リファレンスチェックについても同様のギャップがあります。公式なリファレンスチェックは候補者の同意のもとに行われますが、エグゼクティブ層のサーチでは「バックチャネル・リファレンス」——候補者に通知せずに行われる非公式な評判調査——が日常的に実施されています。業界内のネットワークを通じて、候補者の過去の実績、マネジメントスタイル、退職時の状況などが確認されます。

この非公式リファレンスの結果が選考に影響を与える場合でも、候補者にその事実が伝えられることはほとんどありません。不合格理由として「他の候補者との相対評価の結果」という説明がなされますが、実際にはバックチャネルで得られたネガティブ情報が決定打となっている場合もあります。

「社内異動」という選択肢が提示されない構造

サーチファームが候補者に言わないことの中で、最も構造的に興味深いのは「社内異動を検討してみてはどうか」という助言が、ほぼ提示されないという事実です。候補者が求めているのが「転職先」ではなく「環境の変化」である場合、社内公募や新規事業チームへの異動が最適解となるケースは少なくありません。しかし、成功報酬型のビジネスモデルにおいて、候補者が社内異動で課題を解決してしまうことは、サーチファームにとって売上の喪失を意味します。利益相反というよりも、ビジネスモデルの構造上、そのアドバイスが生まれる回路が存在しません。

この構造は、候補者に対して「転職するか、現状に留まるか」という二項対立のフレームを暗黙のうちに強います。実際には「転職・社内異動・残留」という三つの選択肢が存在するにもかかわらず、候補者がサーチファーム経由で接する情報は、必然的に最初の選択肢に偏ることになります。

構造を理解したうえで関係を構築する

サーチファームとの関係において重要なのは、彼らを「敵」とみなすことでも、無条件に「味方」と信じることでもありません。サーチビジネスの構造的なインセンティブを理解したうえで、提供される情報の精度と限界を見極め、自ら補完的な情報収集を行うことが大切です。業界内の知人を通じた企業評価、IR情報や報道の独自分析、面接プロセスでの観察——こうした多角的な情報源を持つ候補者は、サーチコンサルタントから見ても「この人には率直に話したほうがよい」と判断されやすくなります。情報の非対称性は、候補者自身の情報リテラシーによってある程度まで縮小できるものです。しかし完全に解消されることはなく、その残余をどう扱うかが、転職という意思決定の質を静かに左右し続けています。